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2021年も高い水準にある女性の自殺者— —コロナ禍だけが原因とは言えない理由

遠山 高史遠山 高史

2022/01/27

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他愛ないリアルなコミュニケーションにはセロトニンを増やす効果が イメージ/©︎imtmphoto・123RF

通説では女性はストレスに強いというが…

2020年の女性の自殺者数は前年より935人(15.4%)増え、21年の速報値では11人減少したとはいえ、依然として7000人を超える高い水準にある。

令和3(2021)年月別の自殺者数

出典/警察庁「令和3年の月別の自殺者数について」(12月末の速報値)

働く女性、主に非正規雇用の自殺が増えているという。しかし、このことをコロナ禍の影響と一言で片づけるのは容易なことであるが、今、何が社会で起こっているのだろうか。

ここではあえて、性別の表記を“雄と雌”と表記するが、生物学的にみると、雌は雄に比べて、頑丈にできているというのが通説である。

生物としての雌の役割は、子どもを産むことだ。出産という大事業に耐えなければなないため、雄に比較して、痛みにも強く、過酷な環境に適応しやすい。雌雄が分かれている生物種のほとんどは、雄の方がストレスに弱く、短命である。

にもかかわらず、人間社会では、女性の自殺者数が増加している。この直接的な原因として考えられるのは、コロナ禍がもたらした男性よりも女性に多く発生した職の不安定さであろう。しかし、それに加えてもう一つは、女性(男性もそうではあるが)には不可欠ともいえるコミュニケーション不足にあるかもしれない。

【参考記事】数値が示す若年層賃貸住まいの高い自殺率 賃貸住宅オーナーとしてできることは何か

動物の本質を否定するリモートワーク

コロナ禍によって、在宅勤務、リモートワークが推奨されているが、これによって人と人とのリアルな交流は減少せざるを得ない。感染を防ぐため、直に触れ合う交流を避けるという方法は、有効な手段である。とはいえ、リアルな交流は情報処理において、バーチャルな交流に比べ、はるかにエネルギーが少なくて済むうえ、親しい人との交流は心的エネルギーを増やす効果がある。

そもそも、巣篭りは動くものとして設計されている動物の本質と調和しない。

人間は群れて地上にはびこってきた生き物であるが、それを保障してきたのは、五感すべてを使って、身体を動かしながらのコミュニケーションによってである。

運動を最小化し、ITなどの視覚情報のみに特化したコミュニケーションツールは、実は受け身の情報量を増やし、その削除に膨大なエネルギーを必要とさせる傾向がある。このことにあまり人が注意を払わないのは、電力などの化石エネルギーの利用でなんとかなっているように見えるからである。

しかし、神経システムの基本作業は膨大な外部情報を削除して残った情報から意味あることを立ち上げることであり、脳がほかの臓器よりはるかに多くのエネルギーを消費するのは、情報の削除にエネルギーが大量に必要だからである。この外部情報をさらに増やしているのがITを利用したリモート作業だ。言い換えれば、この過剰ともいえる情報処理で、脳の疲弊はさらに進めている。

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日本人はうつ病やパニック障害になりやすい?— —その理由とは

リモートワークによって、通勤時間がなくなり、その時間を有効に使えるとして推奨されているが、通勤はその規則性と身体運動、その際に太陽の光を浴びることなどで体内時計を安定化させ、体内のさまざまな活性物質の分泌をもリズムよく促すことに役立っている。

セロトニンという神経伝達物質がある。人の心のありように、大きな役割を持っている活性物質だが、これが欠乏することによって、人は不安を感じやすくなり、気分が落ち込む。

昨今、増加傾向にある、うつ病やパニック障害などは、このセロトニンの欠乏が、一因であると考えられている。

セロトニンを正常な分泌に促すためには、すでに述べたように、日光を浴び、リズムある運動をすることで、体内時計を安定化させることである。

特に日本人は、セロトニンの分泌が他民族より弱い遺伝子型を持つ人の割合が多いというデータがあり、不安を感じやすい傾向が強い。今の状況を鑑みると、自殺率の増加は避けがたいことなのかもしれない。

増える女性の外来患者

ここで女性の自殺率の増加に対して、深堀りしてみたいと思う。女性の自殺者の中で、職についている女性の20年の自殺者数は3割近くも増加したという。

これは特筆すべきことである。

近代になって、女性を取り巻く環境は大きく変化した。行使できる権利は増え、社会進出は盛んになり、「男女平等」が叫ばれ、「専業主婦」という言葉は、今や絶滅しかねない環境にある。しかし、すべからく、よき事の裏には、ネガティブな事柄が存在する。つまり、手に入れた権利と自由の裏側には、義務とか責任という事柄がくっついてくる。

確かに女性は社会的に、自由になりつつある。その昔、男性しか就けなかった職業にも、女性の進出は著しい。管理職に女性を積極的に登用する企業も増えている。しかし、子どもを産むという役割は、雌である以上存在する。育児、家事の分担もまだまだ女性の負担のほうが大きい現状である。

女性が権利を獲得した瞬間、社会から女性に求められる責任は増大したとはいえないだろうか。活力にあふれ、自己の向上を目標とする人ならば、それでよいかもしれない。しかし、それがすべての人間に当てはまるわけではない。

情報の溢れる社会と、増える重責(例えば、家事に加え家計を支える仕事)で疲弊している女性も少なからずいるであろう。今の女性は、見方を変えると、かつてより厳しい状態に置かれているとも言えるのである。

実際、仕事で頑張りすぎてくたびれ果てた女性が外来を訪れることが珍しくなくなっている。そういう時、私は

「日の光をあびて、散歩しましょう。散歩のついでに、お気に入りのカフェでも見つけて、気の合う誰かとお喋リできればいいですね」

と、今や簡単には実現しそうにないつぶやきを行う。家の外での他愛ないリアルなコミュニケーションは、脳の情報処理にそれほどの負担はかけず、セロトニンを増やす効果が、結構あるものだからである。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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